患者さんへ

 病理や病理診断、細胞診断という言葉は患者さんにとってはあまりなじみのある言葉ではないと思います。医療ドラマにもほとんど出てきませんし、出てきたと思ったら法医と勘違いしている内容がほとんどです。
 しかし、病理は実際の医療に密接に関係しており、しばしば最終診断になっています。病理診断を基に臨床診断が組み立てられ、治療計画が立てられています。病理の誤診は、イコール臨床診断の誤診になり、間違った治療がなされてしまう場合が多いのです。
 これらは医療事故の重大な原因の 1 つになります。かように重要な病理診断ですが、日本ではこれまであまり患者さんの目にとまってきませんでした。この理由には種々のものがありますが、私は病理側の認識のずれが大きな原因であったと思っています。
 日本では、病理学は、大学のシステムでは、基礎医学に位置づけられています。従ってこれほどに重要な病理診断ですが、どちらかと言うと基礎病理学者が片手間に行う、いわゆる片手わざであった側面がありました(江戸時代、貧乏御家人が、幕府に内緒でアルバイトをしていたと言います、これを片手わざと言っていたようです)。もちろん、従来も病理診断を行う者は、責任感をもってそれに従事してきたことは事実です。
 私が申し上げたことは、医療のシステムの中で、病理診断が明確には位置づけられてこなかったということであります。しかし、昨今の医療事情は、病理診断を片手わざでは済ませなくしています。病理診断に専任する診断病理医を要求するようになりました。
 本学においても、このような事情から、附属病院に診断病理部門を置きました。我々の仕事は患者さんに良質な病理診断を与えるのが仕事です。そのためには、自ら診断能力の向上に努力しなくては行けません。

 先般、厚生労働省において、病理診断科が標榜科として認可されました。いよいよ臨床科としてスタートすることになります。片手間ではなく、病理診断に専任する病理医の必要性が正式に認知をされたことを意味します。

 良き病理医とは、どのような者を言うのでしょうか?私にも正解がある訳ではありませんが、私なりに考えてみました。良質な診断病理医の見分け方であります。
 まずは、自らの施設の病理診断に関するデータを公表しているか、であります。これは論文>学会発表>ホームページの順に信頼性があります。
 人体病理に関する論文や学会発表をしっかりしている病理医は、かなり勉強している優秀な病理医と考えて間違いはないでしょう。ただ経験ばかりを積んでいることを自慢している者よりも、多少少ない経験数であっても自らの診断や治療効果を科学的に検証している者の方が信頼の置ける医師であることは、ご理解いただけると思います。
 我々の論文、学会発表、院内データはこのホームページで公開しています。是非ご覧になり、自らの目でご評価していただきたいと思います。
 次に院内や院外で積極的に症例検討会に参加しているか、であります。ただ病理標本をみているだけでは、診断力の向上には十分でありません。臨床所見(検査データ、画像データ、など)との対比を行うことが病理医自らの診断能力の向上には必須であります。
 本ホームページでは、我々が日常院内や院外で行っている症例検討会の一部を公開しています。我々が、いかに真剣に正確かつ良質な病理診断を追求しているかをご理解いただけたら幸いです。
 何例の病理診断行ったかということも重要ですが、それより重要なことは、自らが経験した症例を科学的に検証し、個々の症例を一例一例丁寧に検討することです。単に経験のみを蓄積している医師は、決して優秀な医師ではありません。
 近ごろ、週刊誌などで、症例数のみでその病院や医師のレベルを決めている記事を目にしますが、これなどは全く評価の一部分しか見ていない浅薄な評価法なのです。よく注意されて下さい。


 病理診断が下される時間ですが、生検(内視鏡生検など)は 3 日以内(多くは 2 日以内です)、手術材料は 14 日以内です。これは病理側に患者さんの病理検体が提出されてからの時間です。
 手術材料に時間が掛かるのは、標本数が多いことと前述のような詳細な検討がなされて診断が下されているからです(もちろんこの点は生検も同様です)。手術材料の病理診断は最終診断になります。
 この情報から癌の進行度などの患者さんの術後の治療や予後に重大な影響を及ぼす因子が得られます。故に、術後材料の診断には多少時間を掛けても正確、精密さの方を優先しています。
 もちろん、中には診断困難例があります。これについても無理に院内のみで診断をするのではなく、学外のその分野のエキスパートに積極的にコンサルテーションをお願いしています。
 正確、精密な病理診断を何よりも心がけています。

 病理診断は、患者さんには、なじみのない言葉かも知れませんが、医療の中で重要な位置を占めています。
 これからも、患者さんに分かりやすく病理診断(細胞診断も)の知識や情報を提供できるよう心がけていきます。どうか、今後もよろしくご鞭撻の程お願い申し上げます。


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