教室の概要と展望

診療

概要: 近年我々を取り巻く医療の構造は大きく変化してきました。経済のグローバル化と相まって、医療もグローバルスタンダードが要求されています。医療のサービス産業化が明確になり、選ぶ時代から選ばれる時代へ変わってきています。病院は選別される時代に突入しました。この激動の時代において病理医も裁判官などとおだてられて、あぐらをかいていると時代に取り残されてしまいます。病理部が病院の中で確立された地位を築くために自らの存在意義を明確にしなくてなりません。

A. 病理診断も院内サービス産業である。

 臨床側へのサービス部門としての基本認識が必要になると思います。早く、正確に、丁寧に、対応することが要求されます。提出された検体は正確に診断し、迅速に提出しなくてはならなくなります。もちろんこのためには臨床各科の協力が必要です。手術材料の切り出しは相当労力が要求され、標本ブロック数も多くなります。速やかに標本作製するためには迅速な材料の提出が必要です。一方通行ではなく、臨床との相互理解に努めたいと思います。

B. リスク管理の意識の徹底化

 病理診断は臨床診断に強く影響しています。従ってその結果は極めて大きく、その間違いが重大な医療過誤につながる可能性があります。病理診断は病理医のみで完結する訳ではありません。臨床検査技師との連携が極めて重要です。病理診断は病理医の問題ですが、このためには良質な標本の供給がされなくてはなりません。正確な病理診断には標本の取り違い、紛失、不充分な病理標本作製などの技師側に依存している標本作製過程の問題が解決されていることが前提です。医師側と技師側が連絡を密にするために、リスクマネージャーを双方に置くべきと考えます。同じ職場にいながら、意外と情報の共有ができていないことがあります。加えて病理医は医療監査の立場にあることも意識しなくてはいけないと思います。

C. 新しい技術の導入が要求される。

 これだけ技術の進歩は早いのに、病理診断に新しい技術の導入が必ずしも早くないのは何故でしょう? 病理では20〜30年前と大した技術上の変化はありません。今もって組織像を中心とする HE 診断からルーチンは一歩も踏み出ていません。分子生物学の進歩は著しいのに病理のルーチン検査に分子生物学的技術は導入されていません(研究レベルでは大いに行われているが)。ポストゲノムの時代と言われる中で、病理診断はゲノムの時代にも完全適応していません。
 分子病理の要求は今後ますます高まるでしょう。従来の病理診断にいかに分子生物学的技術を導入していくか、早急な回答が要求されています。もちろん、病理単独では実現困難で、そのためには患者さんへの informed consent や臨床各科の協力が欠かせません。また全ての領域で行うことはマンパワーやエコノミーの点からも現実的ではありません。私は客観的に病理診断への有用性が確立されている領域から始めることを提案いたします。悪性リンパ腫の診断に分子病理診断は不可欠になりました。軟部腫瘍の診断にもキメラ遺伝子の同定が病理診断にダイレクトに対応するようになりました。ウイルスの同定には in situ hybridization は不可欠です。乳癌や胃癌の治療選択のためにある種の癌遺伝子の増幅 (Her 2) を同定することが保健適応となりました。私の専門の消化器病理においても効果的な分子病理診断が充分可能と思われます。最近ではki-ras変異の有無がある種の分子標的治療薬(セツキシマブ)の効果を決めていることが明らかにされました。しかし今までの古典的な手法が用済みになった訳ではありません。古典的手法は先人が失敗を重ねたあげくに到達した効率的な手法であることを忘れないことです。今まさに"古き革袋に新しい酒を盛る"、ことが要求されています。

D. カンファランスへの参加とその必要性。

内科・外科・病理診断科による
上部消化管カンファランス

 カンファランスは専門家による症例検討会です。病理部も積極的に参加して、効果的・合理的な診断・治療の確立に貢献すべきです。カンファランスは病院の質を高める効果的な方法です。事実質の高い医療を供給している医療機関ではカンファランスが頻繁に行われています。加えてカンファランスには卒後教育の効用もあります。研修医はもちろん地域で御開業や勤務していらっしゃる先生方にも最新の知識や情報を提供できる場としても充分機能します。

E. 病理医の育成

病理医と大学院生による
ディスカッション

 病理医の育成は病理部の重大な使命です。効果的なカリキュラムを作成して、合理的な人材育成に努めるべきです。なるべく特定の領域に限定しない幅広い専門医の育成を行わなければなりませんが、限られたスタッフで全領域の専門医を育成することは不可能です。生検病理は本邦では消化器、泌尿器関連、婦人科関連(乳腺を含む)、で日常の病理診断のほとんどです。従って現実にそくせば、上記の領域をカバーできる病理医の育成が最も効果的・合理的と思います。これに加えて、血液病理の専門家も必要と思われます。悪性リンパ腫の診断は非腫瘍性と腫瘍性の鑑別が困難で、病理診断の影響は甚大です。上記の領域を中心にスタッフに複数の専門分野を持つことを要求したいと思います。

F. 病理外来の設置

 病理解剖や病理診断は病理医が専権的に行っています。自分で診断した内容は自分で患者さんにお伝えすることが当然ではないでしょうか?私は診療各科の理解が得られれば、病理外来の設置をお願いしたいと考えています。具体的には、混乱の少ない解剖例の説明をご遺族に行うことから始めたいと思います。次に希望者に病理組織診断の説明を行いたいと思います。場所やスタッフの問題などが山積していますが、これからの新しい病理医の姿のように思います。希望者には有料でも良いかも知れません。病院の収益に貢献できれば一石二鳥です。
 診断病理学は基礎ではありません。臨床医学です。これが診断病理医の原点であると信じています。


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