乳癌の形質分類と診断的有用性 (2008/04)

 乳癌の組織型は乳管癌 (ductal carcinoma) と小葉癌 (lobular carcinoma) の二つに大別されるが、近年分子生物学研究の進歩により、同じ乳管癌であっても異なる分子生物学的特徴を示すいくつかのグループに分類され、グループ間で予後や化学療法などの感受性に違いがあるとして注目されています。
 Sorlie ら米国の乳癌研究グループは 2001 年に cDNA microarray を用いた遺伝子発現プロファイルから浸潤性乳管癌を 5 つのグループに分類した。彼らはエストロゲン受容体 (ER) の発現の有無により、ER (+) 癌を二つのグループ (luminal A と luminal B) に、ER (-) 癌を三つのグループ (normal breast type, ERBB2 + type, basal-like type) に分類した 1)。このなかでも basal-like type は化学療法の感受性も低く、予後不良であることが指摘されている。本邦での頻度は浸潤性乳管癌の 8% 前後とされているが、特徴的な点として ER (-), PgR (-), HER2 (-) のいわゆる "triple negative"を示すこと、基底/筋上皮細胞のマーカーであるサイトケラチン 5/6 が陽性となることが知られている。組織学的には低分化で異型が強く、核分裂像が目立ち(組織学的グレード 3)、地図状の壊死、圧排性の浸潤、リンパ球浸潤が目立つ、等の比較的特徴的な組織像を示すことが指摘されている。最近では免疫組織化学的に形質分類することが可能であり(下表)2)、当科では各症例につき免疫組織染色を施行している。患者の治療・予後にも反映するこれらの情報の提供はこれからの病理診断には必須であり、重要なポイントであると思われる。

乳癌の形質分類と診断的有用性

phenotype ER PgR HER2 CK5/6 EGFR(HER1)
luminal A positive and/or positive negative any any
luminal B positive and/or positive positive any any
basal-like negative negative negative positive and/or positive
HER2 negative negative positive any any
unclassified negative negative negative negative negative

1) Sorlie T et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Sep 11; 98(19):10869-74.
2) Carey LA et al. JAMA. 2006; 295 (21): 2492-2502.