悪性中皮腫病理診断における免疫染色の有用性について (2008/12)

 悪性中皮腫はアスベスト(石綿)の曝露により生じる比較的稀な悪性腫瘍である。アスベストの曝露を受けてから数十年の経過を経て発症することが多く、近年増加傾向にあり、社会的問題にもなっている。中皮腫の病理診断は依然として困難である症例が多く、アスベスト曝露の既往、画像診断、胸水のヒアルロン酸値、細胞像、肉眼像、組織像を総合的に診断する必要がある。その上で免疫組織化学により確認することが必要である。
  上皮様中皮腫は胸膜の場合は、肺腺癌及び他の臓器、特に腎臓からの転移との鑑別が時として問題となり、小さな生検材料では鑑別診断が困難である場合がある。免疫組織化学的には calretinin 、 cytokeratin 5/6 (CK5/6) 、 D2-40 及び WT-1 が中皮腫の陽性マーカーとして、 CEA 、 MOC-31 、 BerEP4 、 B72.3 及び TTF-1 が腺癌の陽性マーカーとして有用とされている。
染色性の評価には局在が重要で、 calretinin は細胞質及び核に、 WT-1 は核に、 CK5/6 は細胞質に、 D2-40 は細胞膜に染色される。 WT-1 は肺腺癌では細胞質に陽性となることが多い (76%) が、核陽性像を示すことは稀である。近年、 リンパ管内皮マーカーである D2-40 が上皮様悪性中皮腫の優れたマーカーであるとの報告もあるが、卵巣の漿液性腺癌の 65% が D2-40 陽性との報告もあり、今後の症例の蓄積が必要と考えられる。
中皮腫の診断に最良と思われる免疫染色のパネルは陽性マーカーとして calretinin and CK5/6 (or WT1) 、 陰性マーカーとして CEA and MOC-31 (or B72.3, Ber-EP4, or BG-8) であり、これらの抗体の組み合わせで診断確定することが望ましいと考える。

malignant mesothelioma
lung adenocarcinoma
Calretinin
100%
8%
CK5/6
100%
2%
WT-1
93%
0%
CEA
0%
88%
MOC-31
8%
100%
B72.3
0%
84%
BerEP4
18%
100%
BG-8
7%
96%

Ordonez NG. The immunohistochemical diagnosis of mesothelioma: a comparative study of epithelioid mesothelioma and lung adenocarcinoma. Am J Surg Pathol. 2003; 27: 1031-51.
Ordonez NG. D2-40 and podoplanin are highly specific and sensitive immunohistochemical markers of epithelioid malignant mesothelioma. Hum Pathol. 2005; 36: 372-80 .