教室の概要と展望

研究

概要:研究は消化器を中心に行ってきました。現在まで行ってきた研究成果の主なものをまとめます。
腺管分離法 (CIM) は純粋な上皮成分のみを得ることができるため、腫瘍細胞のみの遺伝子解析や DNA ploidy の測定が可能です。我々は消化管腫瘍における分離腺管の分子病理学的有用性について明らかにしました。

I) 胃・大腸癌における分離腫瘍腺管の遺伝子解析

胃癌及び大腸癌を用いて分離腫瘍腺管と通常新鮮材料における LOH (loss of heterozygosity) 、 MSI (microsatellite instability) 、p53 変異の比較を行いました。 LOH は CIM で有意に検出頻度が高く、分離腫瘍腺管を用いた解析の有用性が示されました。

II) 分離腺管の DNA ploidy に基づいた胃・大腸癌の遺伝子異常の解析

大腸癌と胃癌の DNA ploidy を diploid (D) 、 aneuploid (A) 、 multiploid (M, D+A) の 3 型に分類し、これらの genetic profile (LOH 型、 MSI 型、その他 ) の違いを明らかにしました。

  1. 大腸癌と胃癌では genetic profile が異なっていた。
  2. 大腸癌においては、 D は LOH 型と MSI 型で、 A と M は LOH 型であったのに対して、胃癌では A 、 M は LOH 型と MSI 型であったが、 D はその他と MSI 型であった。
  3. 両腫瘍で遺伝子異常のパターンが D 、 A 、 M 間で異なっていた。

上記の結果から、 3 者は独立した genetic profile を有することが示されました。最近ではdiploid lineとaneuploid lineを別々にsortingして、それぞれのCNVを調べています。同一ヒストグラム内にdiploidとaneuploidがあるのは、同一腫瘍内におけるprogressionモデルと解することも可能です。プログレッション遺伝子の同定も可能かも知れません。

III) 分離腺管による DNA ploidy に基づいた大腸腫瘍の発生仮説

大腸の隆起型腺腫と早期癌を、 DNA ploidy の結果から D 腺腫( diploid を示す腺腫、以下同じ)、 M 腺腫、 D 早期癌、 M 早期癌の 4 群に分類しました。 DNA ploidy に関連した腫瘍発生経路として想定される 4 経路の遺伝子変化は、「 D 腺腫→ M 腺腫」では 18q LOH が、「 D 腺腫→ D 早期癌」では ki-ras の変異がみられ、「 M 腺腫→ M 早期癌」と「 D 早期癌→ M 早期癌」では p53 変異と関連がありました。このように、 DNA ploidy と腫瘍発生の密接な関連が示唆されました。

IV) 胃癌と腸上皮化生及び大腸癌における単一分離腺管の分子レベルの解析

大腸癌と胃癌及びその周囲粘膜から CIM を用いて単一腫瘍腺管と単一腸上皮化生腺管を採取し、 LOH 、 p53 変異、遺伝子プロモーター領域のメチル化を解析しました。その結果、

  1. 同一腫瘍内で腺管単位の多様な分子異常のモザイク状態が示唆されました。
  2. 単一腸上皮化生腺管には早期胃癌に匹敵する分子レベルの異常がみられました。

V) 大腸・胃腫瘍を用いて DNA ploidy 、細胞増殖能、遺伝子異常の病理診断への応用

大腸・胃腫瘍に用い、分子マーカーの有用性を明らかにしました。我々の診断は分子マーカーに相関していました。分子病理診断の日常診療への応用が可能になりました。 DNA aneuploidy 、 18q LOH 、 p53 変異、 ki-ras 変異などは腺腫の悪性度の指標として有用であることを明らかにしました。

VI)粘液形質に基づいた新しい胃癌の genetic pathway の提唱

粘液形質から胃型、腸型、混合型に分類し、遺伝子解析を行ったが、これらの組織型は互いに異なった遺伝子異常で構成されていることが分かりました。胃癌の新しい genetic pathway の提案を行いました。
 現在では、更にこれらを発展させて、細胞周期関連蛋白の異常や関連遺伝子のメチル化を解析しています。
 共同研究として消化器癌におけるミトコンドリアゲノムの異常 や胆・膵領域の DNA 解析にも力を入れてきました 。

VII) 消化器、婦人科腫瘍、泌尿器系腫瘍の臨床病理学的解析

最後になりますが、上記腫瘍の臨床病理学的解析を行っています。右側型大腸癌と左側型大腸癌では、臨床病理学的にも種々の違いがあることを明らかにしました。加えて遺伝子レベルでも明確な違いがあることも示しました。

VIII) 消化管腫瘍及びその背景粘膜におけるエピゲノム解析

胃癌、大腸癌、胆嚢癌における周囲粘膜のエピゲノム解析を行いました。胃癌周囲粘膜で腸上皮化生腺管、非腸上皮化生腺管、胃癌腺管についてDNAメチル化異常の解析をしました。腸上皮化生腺管では胃癌腺管に匹敵するメチル化以上がみられることが分かりました。大腸癌周囲粘膜も一部で遺伝子ではメチル化異常の蓄積がみられました。胆嚢癌では予想に反してメチル化異常の蓄積はありませんでした。

IX) 消化管腫瘍、婦人科腫瘍におけるmicro-RNA解析

胃癌、大腸腫瘍を用いてmicro-RNA解析を行っています。Micro-RNA 34b/cについてDNAメチル化との関係を調べています。

X) 婦人科腫瘍における分子解析

分離腺管を用いて子宮内膜腺癌、卵巣腫瘍の分子解析を行いました。子宮類内膜腺癌は乳癌と同様の4つの形質に分類可能なことが臨床病理学的にも分子レベルでも明らかになりました。卵巣腫瘍も4つの基本組織型でそれぞれ分子異常が異なることが明らかになりました。

XI) 大腸の鋸歯状病変の分子異常

右側に発生する鋸歯状ポリープには、 MSI 陽性癌の前駆病変が含まれていることもが、欧米で指摘されていますが、本邦では未だ十分には受け入れられていません。診断基準を作製し、分子異常の観点からその有用性を明らかにしました。

 今後も臨床検体を中心とした分子病理学的な研究を行っていきたいと思います。
 これらの研究が機能すれば、これまで通り科学技術研究費の取得が十分可能と考えています(毎年何らかの科学技術研究費を取得しています)。しかし、研究費の獲得には英文論文の蓄積が必要ですので、行った研究はすべからく英文にする努力を今まで以上にしたいと思います。
 最後に研究にはコンセプトと勢いが最も重要と考えます。若い世代のアイディアを大事にする規制のない研究室になればと念願しています。


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